建築物の維持保全の基本概念 CONCEPT

建築物に求められるものは、雨露をしのげる空間であれば良かった時代から、雨・風・日射等の自然界から人間や物を保護し、安全かつ衛生的で快適な生活空間を確保すると共に、より機能的な社会生活の場を提供する為のものへと推移してきた。また近年においては、木造・組積造から鉄筋コンクリートや鉄骨鉄筋コンクリート・鉄骨へと変わってきた。これらのことから、建築物としての寿命が50~100年の期間を期待されるようになった反面、生活環境の安全性・快適性及び衛生的環境を構築する建物内の各設備や非構造の寿命は建築物としての寿命の20~30%の期間しか期待出来ないのが現状である。

先搬まで建築物の維持保全は、建築物の竣工時点での初期機能や性能を損なわないようにしながら少しでも建築物を長持ちさせる行為、あるいは建築物を竣工時の状態に保持する行為とされ建築物の竣工以降に行われるものであった。その内容も、建築物の初期機能や性能のうち主に安全上、防火上及び衛生上の観点から各種法令で確保すべき水準が定められ、各種法令によって点検が義務付けられるもののみについて点検を実地し、適法性を保つことが維持保全であるとした狭義の解釈が多く体制を占めていた。狭義の維持保全による建築物の機能や性能の物理的劣化に対処することに加え、社会的な劣化(陳腐化・不合理的等)の防止を図ることも重要なことである。

社会ニーズとしての要求レベル向上(技術革新、生活環境、業務形態等)安全面強化により社会的要求水準は変化していく。建築物の機能や性能自体がこれからの要求に適合出来なければ、良質な社会資本としての価値は半減又は消滅してしまうこととなる。狭義的考え方で、技術・生活環境業務形態等の不具合が生じてからの機能や性能に適合させようとすると、改修・補修は多大な時間と費用が必要なだけでなく、一時的にも建物の機能を停止しなければならなくなる。そのようなことがないように点検・診断等によって建物の機能や性能の状態を把握し、社会的な劣化を予測したうえで不具合が生じる前に予防的な処置を施すことが建物を経済的に長持ちさせる為に必要なことである。又、近年の建築物のL,C,Cによると企画・設計・建設・運用・廃棄までに関する総コストは、イニシャルコストの2倍~3倍あるというのが一般的に言われている。そこで、近年の維持保全は広義的な考え方で建築物の竣工時点の機能や性能を保持し、又社会情勢に対応して新たに機能や性能を付加すること等を考慮した設計や施工、竣工、その後の問題にとどまらない。

建築物維持保全は狭義及び広義の2つの解釈が一般的であるが、広義の維持保全が近年の解釈になりつつある。